GPUサーバーを1,000万円分買った法人の社長に、そのサーバーがどこにあるか聞くと、答えられないことが多い。「データセンターにあると聞いています」「業者が管理しているので」。買った設備の所在を知らないのは、自分の事業に使うために買った設備ではないことを、自分で認めているのと同じである。
即時償却が認められる前提は、設備を取得し、事業の用に供したことである。現物が無い、あるいは自分の事業に使われていない設備には、償却する根拠が無い。現物の確認は、営業者が破綻したときの備えであると同時に、否認を避けるための足場でもある。
写真と動画は確認にならない
販売会社は、データセンターのラックに並んだサーバーの写真や、トラックが並ぶヤードの動画を見せる。これは確認ではない。写真の中のどのサーバーが自分のものかが分からないからである。
同じ写真を100社の買い手に見せても、写真は嘘をついていない。サーバーは実在する。ただし100社分は無いかもしれない。マイニングマシンの事案では、購入者が買ったはずの台数と、実際に設置されていた台数が合わないという指摘が、破綻後に出た。現物が無いことは、破綻するまで出資者には分からない。
確認の単位は、写真ではなく、識別番号と場所である。
確認する4点
識別番号
サーバーならシリアル番号、トラックなら車台番号、自販機や両替機なら製造番号。契約書や納品書に、自分が取得した設備の識別番号が1台ずつ書かれているかを見る。「GPUサーバー 2台」のように台数だけで、番号が無い契約書は、どの設備が自分のものか特定できない。特定できない設備の所有権は、営業者が破綻したときに主張できない。
識別番号が契約書に無いなら、納品時に番号を記載した納品書と、設備本体の銘板の写真(番号が読めるもの)を求める。これは「写真は確認にならない」と矛盾しない。番号が写っていれば、写真は台帳の裏づけになる。
設置場所
住所である。データセンターなら、どの事業者のどの拠点か。トラックなら、どの運送会社のどの営業所に貸し出されているか。「国内のデータセンター」「提携先の運送会社」は住所ではない。
設置場所が分かれば、その場所の管理者に、自分の設備がそこにあるかを直接問い合わせられる。営業者を通さずに確認できることが重要で、営業者しか知らない場所に設備があるなら、営業者が消えたときに設備も消える。
管理者と契約の相手
設備の保守、電力、保険、レンタル先との契約を誰が結んでいるか。営業者が結んでいるなら、営業者が破綻した時点でそれらの契約も止まる。データセンターの利用料が払われなくなれば、サーバーは電源を落とされ、やがて撤去される。撤去された設備を取り戻すには、所有権を証明したうえで保管料を払う必要があり、サーバー1台の価値を保管料が上回ることは珍しくない。
管理者との契約が営業者名義であることは避けられない場合が多いが、少なくとも管理者が誰かと、営業者が止まった場合に出資者が直接契約を引き継げるかは、契約前に文書で確認できる。
所有権の裏づけ
動産の所有権の移転は、引渡しで第三者に対抗できる(民法178条)。ただしこの「引渡し」には、現物を動かさずに営業者が「今日からあなたのために預かります」と意思表示するだけの占有改定も含まれる。占有改定は外から見えない。営業者が同じ設備を複数の出資者に売っていても、どちらが先に引渡しを受けたかは証明しにくい。
これを補うのが動産譲渡登記である。法人が動産を譲渡する場合、東京法務局の動産登録課に登記でき、登記をすれば引渡しがあったものとみなされる(動産・債権譲渡特例法3条)。登記には譲渡人、譲受人、動産の特定(種類・識別番号・所在地)が記録される。営業者から設備を取得する形の商材なら、この登記を求める。営業者が「登記は不要」と言うなら、なぜ不要かを聞く。合理的な答えは少ない。
トラックや車両なら車検証の所有者欄で足りる。所有者が営業者やリース会社のままで、使用者欄すら自社でないなら、自社の資産ではない。
保険証券も裏づけになる。動産総合保険や火災保険の被保険者または保険の対象に、自社と識別番号が記載されていれば、保険会社という第三者が設備の存在と帰属を認めていることになる。
匿名組合型では「自分の設備」は無い
ここまでは買い手が設備を所有する売買型の話で、匿名組合型では前提が変わる。
匿名組合では、出資者が払った金は営業者の財産になり(商法536条1項)、営業者が設備を取得して運用する。設備の所有者は営業者であって出資者ではない。出資者が持つのは、営業者に対する利益分配と出資金返還の請求権である。
したがって匿名組合型では、現物の確認は「自分の設備があるか」ではなく「営業者が出資金で本当に設備を買ったか」の確認になる。見るものは同じ4点だが、名義は営業者である。営業者が破綻すれば設備は破産財団に入り、出資者は一般の債権者として配当を待つ立場になる。
匿名組合型で現物の確認を怠ると、営業者が出資金を設備に使わず運転資金や分配金に回していても、気づく手段が無い。営業者の決算書に固定資産として設備が計上されているか、その取得価額が出資総額と見合っているかは、決算の確認で見ておく。
税務上の意味
即時償却も特別償却も、設備を「取得等をして指定事業の用に供した」ことが要件である。現物が無い、あるいは自社の事業に使われていない設備は、この要件を満たさない。
営業者が破綻して現物が無かったことが分かると、出資者は損失を被るだけでなく、過年度の即時償却が「事業の用に供していない」として否認される可能性に向き合う。設備の代金は戻らず、減った税金は追徴で戻される。二重に損をする構造である。
契約時に識別番号と設置場所を押さえ、動産譲渡登記か保険証券で所有権を裏づけ、年に1回は設置場所の管理者に稼働を確認する。これだけで、否認された場合の反証資料にもなる。
審査の順番
- 契約の型を確認する。売買型なら自社の所有、匿名組合型なら営業者の所有
- 識別番号が契約書か納品書に1台ずつ書かれているか
- 設置場所の住所と管理者の名前。営業者を通さず管理者に確認できるか
- 所有権の裏づけ。動産譲渡登記、車検証、保険証券のいずれか
- 営業者が止まったとき、管理者との契約を引き継げるか
最後に、営業者が破綻したときに自分がどの順番で返してもらえるかを、債権順位の記事で確認する。