ビル広告枠は、この連載の中で唯一「減価償却」を使わない商材である。買うのは機械でも車両でもなく、広告を出す「枠」で、それを広告宣伝費として全額損金にする。手元に資産は残らない。この一点で、他の商材と評価の軸が変わる。
仕組み
法人が、ビルの壁面や大型ビジョンの広告枠を、1口1,000万円で一括購入する。業者は「広告宣伝費として全額損金」と書く。買った枠は、法人が自社の広告を出すのではなく、業者が他の広告主に転売し、その収入が法人に月5%ずつ分配される。20か月で元本が戻り、2年で120%というのが業者の表記である。設置と修理は無料、転売の保証は無く、収益化に6か月以上かかることがあり、未使用の枠は破棄される、と業者自身が書いている。
税務の論点はここにある。広告宣伝費が損金になるのは、自社の事業のために広告を出すからである。広告を出す予定がなく、転売収入を得る目的で枠を買う取引は、実態としては投資であり、前払費用か、金融商品への出資に近い。税務調査で「広告宣伝の実態」を問われたとき、自社の広告が一度も出ていなければ、損金性そのものが否認されうる。
期間
2年。月5%の分配が20か月で元本に達し、残り4か月で20%の上乗せになる設計である。広告枠の契約期間が2年で終わり、その後は何も残らない。
キャッシュフロー
1口1,000万円、月50万円(年600万円)の分配を2年、合計1,200万円(120%)の例。購入時に全額を広告宣伝費として損金処理。実効税率33%。単位は万円。
| 年 | 投資・売却 | 分配・収入 | 損金(−)/益金(+) | 税効果 | 税引後CF | 累計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0年目 | ▲1,000 | 0 | ▲1,000 | +330 | ▲670 | ▲670 |
| 1年目 | 0 | +600 | +600 | ▲198 | +402 | ▲268 |
| 2年目 | 0 | +600 | +600 | ▲198 | +402 | +134 |
| 合計 | ▲1,000 | +1,200 | +200 | ▲66 | +134 |
「月5%」「2年で120%」は販売業者の表記。分配が転売の実績に連動するのか固定なのかは記載が無い。損金は購入時に全額計上した前提だが、期間対応で2年に按分すべきという見方もある。
税引前200万円、税引後134万円。年率で見れば税引後6%を超え、この連載の中では最も高い。しかし合計の税効果▲66万円は他の商材と同じ「利益の33%」であり、初年度の330万円は2年で全部戻る。
高い利回りの裏にあるのは、資産が残らないことと、転売の相手が見えないことである。月5%の分配は、業者が他の広告主に枠を売れた場合の話で、売れなければ「未使用枠は破棄」される。
PLへの効果
購入時に広告宣伝費1,000万円が販管費に立つ。本業の利益が1,000万円以下なら赤字決算。1年目と2年目は雑収入600万円ずつ。2年の損益合計は200万円で、繰延べは1年。
ただし会計上、2年間の広告枠を一括で費用にするのは期間対応の原則に反する。監査を受けない中小法人でも、税務上は前払費用として2年に按分すべきという指摘を受ける可能性があり、その場合は初年度の損金は500万円になる。業者の「全額損金」は、税務上の扱いを保証したものではない。
査定
税務は、損金性そのものが論点になる唯一の商材である。減価償却商材は「償却の時期」が論点だが、これは「損金になるかどうか」が論点になる。広告を出さない法人が広告宣伝費を計上する矛盾は、税務調査で最初に指摘される。
商品は、資産が残らない点で最も弱い。機械なら業者が倒れても機械は残る。広告枠は業者が倒れれば何も残らない。「転売保証なし」「未使用枠は破棄」と業者が書いている以上、分配は業者の転売能力に全面的に依存する。
組成側の視点
広告枠の商材は、組成する側から見ると「前受金を損金に見せる」設計である。業者は広告枠を法人に売って1,000万円を受け取り、それを原資に広告主を探す。転売できれば分配し、できなければ枠を破棄する。法人が払った1,000万円は、業者の運転資金になっている。月5%という数字は、この運転資金の調達コストであり、それを業者が「利回り」と呼んでいる。
買ってよい法人、買ってはいけない法人
自社の商品やサービスの広告をその枠に出す法人なら、広告宣伝費は本物であり、転売収入は副次的なものとして成立する。広告を出す予定がない法人にとって、この商材は広告宣伝費の名を借りた無担保の運転資金貸付であり、損金性の否認と業者の信用リスクを同時に負う。